真綿で首を締められるような
舞台が総合病院に移った。
初めての診察は、まあ、内科で言われたことと同じ。
全身検査をして病状を確かめつつ、癌の発生箇所が胃だけなら2/3の摘出手術をしましょう、という流れ。
冷静にしてたつもりが、不安で不安でやっぱり涙ぐんでしまう。
先生は優しく、なんでも話してくださいと言ってくれた。
これから数日かけて検査する、、ということは、st1なのか4なのかわからない状態で、じりじりと結果待ちするということでもある。
余命宣告されたいわけじゃ全然ないけど、この「どうなるかわからずに待つしかない状態」てのは、本当にきつい。
単純な死の恐怖と、この世への未練(おもに子供)と、もー知らんという投げやりな気持ちが、ローテーションでぐるぐる回る。
恐怖→未練→放棄 のローテーションに気持ちが疲れて麻痺してくる。
気持ちが麻痺してる期間が、いちばん体は動く。
胃癌はそもそも自覚症状がないので、体は元気な気がするのだ。
淡々と検査に仕事に入院準備に、(念のため)死んだ時用の準備を進めた。
爆弾投下
診断は、やっぱり胃癌。
しかもスキってた。(スキルス性)
いちばん知りたいのはその先なのだけど、
開腹してみないと、正確なstとレベルはわからないとのこと。
ただ、大きな病院で精密検査をすれば予測はつけられると。
結局その日は、はっきりしたことは何もわからず。
紹介状を用意してくれて、翌日朝一に診察を予約してくれた。
院長先生はすごく優しくて、
うつむいて涙ぐむ私に
「私たちは完治を目指しますから」と言ってくれた。
その頼もしい言葉を胸に、なんとか気を落ち着けると夫と仕事先にラインした。
明日からちょっと病院に通います。ちなみに胃癌です。
サラッと、なるべくサラッと、軽い感じでラインしたつもりだけど、
「胃癌」という単語の破壊力はなかなかで、仕事先からは(いいから治療を優先しろ)とありがたい返信があった。
で、子供を幼稚園に迎えに言って帰ると、夫が頭を抱えていた。
グーグルの検索履歴が一気に禍々しくなった
来院の日。
電話の時点で胃癌なのは明らかなので、これからのことを決めなきゃならない。
一夜漬けでひととおりググってみると
胃癌の場合、ざっくりと
初期癌はイージーモード
st1〜2はノーマルモード(スキルス性だとちょっと難易度高め)
st3以上はハードモード
て感じ。
余命でいうと、私が40なので、3〜40年。めっちゃ振り幅広い、広すぎ。
いくらググったところで、予測もできない。
「よくわかんないけど、胃癌」と言われても夫も困るだろ、てことで
とりあえず情報をもうすこしもらうまでは、黙っておくことにする。
ところで私には5才の子供がいる。
だから、取り乱すな。
冷静に。
落ち着け。
ひたすら自分に言い聞かせながら診察を受けた。
「悪いもの」
内視鏡検査から10日。ほんの束の間の平和が脆くもくずれたのは10月3日だった。
仕事中、知らない番号から電話があった。
その時私は、タバコを吸いながらスマホでラインか何かを見ていた。
慌てて電話に出ると、内科の院長先生からだった。
もうこの時点で嫌な予感しかしない。
「突然の電話ですみませんね」と、おもねるような優しい声で言われた。
「先日の内視鏡検査の結果ですが、、生検の結果悪いものが見つかりまして。早急に、明日にでも来院できますか?」
悪いもの。悪いものて。
もうそれ癌以外になんかあんの?
できればご家族にって言ってるし…。(告知程度なら一人で受診してもOKのようです)
とにかくお礼を言って電話を切ったけど、頭の中が真っ白というか、感情が麻痺したような感じ。
ただ、「あーあ、癌だって」ていうのはストンと納得してた。
胃癌確定の日
2018年の春に、市の癌検診に行った。
母が末期の癌で亡くなっていたし、40才になって、こう、自分の身繕い?というか、一度自分の状況整理をしておこうと思ったのだ。
検査結果は白。
ほっとした。40才もがんばっていこうって思ったのが、5月のことだった。
今年の夏は暑かった。
ほんっと猛暑だったし、在宅仕事もまあまあ忙しくて、子供が寝てから明け方までパソコンを触ってる日もあった。
慢性的に寝不足&不摂生。あと、暑い。
8月頃から胃痛が続くようになった。市販薬じゃ手に負えず、やむなく近くの内科を受診したのが9月だった。
胃炎にしては胃痛の期間が長いってことで、胃の内視鏡検査(麻酔あり)をすることに。
内視鏡検査の結果は胃潰瘍だった。ピロリ菌が原因だそうな。
「生検に回すので、検査結果を聞きにきてください。まあ、何かあればこちらから連絡します」とのこと。
胃潰瘍かー、良かった良かった。
胃癌検診は白だったし、ピロリ菌なんていかにも雑魚キャラの名前じゃん?くらいに思ってた。知らぬがなんとかって、マジだな。
バリウム検査で胃癌(ピロリ菌の有無)診断はできないし、ピロリ菌は100%胃炎をおこし、さらに胃癌まで誘発する可能性がある、侮れない菌なのだ。
でもこの時の私は、これからも目の前の平和な生活が続くということを、まったく疑ってなかった。